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Special Guest

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Vol.41 Special Interview ENDLESS POWER HIROSHI ABE

Vol.41 Special Interview ENDLESS POWER HIROSHI ABE

Photo : Satoshi Miyazawa(D-CORD management) / PhotoManipulator : Satoshi Ozawa,Rika Imai(FIGHT CLUB CO.,LTD)
Hair & Make up / AZUMA@MONDO-artist(W) / Styling : Shido Tsuchiya

On a Long Journey

2015年、クリスマス。Omosan STREET編集部は、俳優 阿部寛が出演した映画『エヴェレスト 神々の山嶺』の試写を観ることが出来た。昨年の大ヒットドラマ『下町ロケット』(TBS)で主演を務め、話題となり注目が高まり続けている阿部寛が、二つ返事で出演を承諾した今年3月公開の映画だ。我々はその試写を観終えた直後、すぐに席を立つことが出来なかった。エンドロールを最後の最後まで観てしまうほどの壮大な作品は、まさに心に残るギフトだった。ドラマ、映画、舞台に、日本アカデミー賞俳優として、世の中を魅了し続ける阿部寛が、この作品の出演にまさに挑んだと言っても過言ではないほど、その演技は我々の心に焼きついた。氷点下50℃、最大風速50m以上、呼吸すら困難なエヴェレストという最高峰での撮影。彼は、キャストやスタッフと共に命がけで挑んだ作品について、弊誌インタビューで振り返ってくれた。質問に答えてくれた言葉ひとつひとつ、作品への思いこそが、まさに役者 阿部寛を知ることができるものだった。彼の役者人生に新たな名作として歴史を刻んだこの映画から、阿部寛を感じて欲しい。

「もう嬉しかったですね。究極の世界を、究極の男で演じるという。時代劇というのもそうですけれど、そういう美学というのは、究極のロマンです。現地のエヴェレストまで行ってやれるというのは、役者冥利に尽きます。仕事として、素晴らしいですね。」

映画『エヴェレスト 神々の山嶺』の出演オファーが来た時の心境を、阿部寛はいきいきと語りだした。この作品は、世界最高峰であるエヴェレストの標高5,200m級でロケは行われ、日本映画史上初の撮影と言われている。それもそのはず、“映像化不可能な小説No.1”と言われ続けた世界的大ベストセラー「神々の山嶺」が原作だ。国内外で映画化オファーが殺到しながらも、そのスケールの壮大さから成立に至らなかったほどの原作が遂に映画化された作品なのだ。この映画で阿部寛は、孤高の天才クライマー、羽生丈二を演じた。羽生との出会いにより人生が変わって行く山岳カメラマン、深町誠を岡田准一が演じた。これ以上ない最高のキャスティングと言われ話題になったのは記憶に新しい。

Vol.41 Special Interview ENDLESS POWER HIROSHI ABE

「本当は、もっと上まで行きたかったです。挑戦してみたかった。でもやっぱり撮影の限界がありますからね。それで限界の高さ5,200mまで行ってロケをしたんです。実際に登ってみると、大きな自然の中に4、50人がいても、我々人間は一点でしかないんですよ。安全が確保された中でのロケでしたが、一歩間違えたら簡単に死にますから。そういう状況まで撮影が出来たというのは、環境を創ってもらって映画の中に一番の財産として残っているんじゃないかな。」

彼の言葉から、最高峰の大自然の中での撮影が行われたことそのものの凄さが一気に伝わってきた。そして、そんなエヴェレストでの撮影だからこそ、この映画の出演への気持ちは強かったと言う。

「やはり実際にエヴェレストに行って、撮影がそこまで出来る。リアリティを追求する作品ですから、挑戦したいという強い想いを抱きました。過酷な所にプライベートでも行かないですからね。」

彼が語る“リアリティ”というキーワードは、まさに映画から伝わる臨場感含め、このストーリーを表現するために欠かすことのできないものだ。そして、阿部寛は、この原作を読んだ印象を語ってくれた。

「これは、凄い物語だと思いました。僕はこれまで山を登ったことがないのですが、山に登る男たちの全てを投げ打ってまでの凄まじい情熱に人間が生きるとは何なのかを考えさせられざるおえない投げかけがあった。普通に考えますと、何故そこまでして山へ行くんだろうって。それで、今回の映画を、やってみたいと思ったんです。極めて男くさいんですよね、このストーリーは。男と男の何か愛にも近いほどの、友情が描かれています。」

原作の魅力、本質をまっすぐ捉える阿部寛。伝説のクライマーを演じる前に、登山をする為のカラダづくり、訓練はかなりの時間をかけて挑んでいた。

「大変でした。練習をする項目としては、多かったです。例えば、実際に三つ峠という山に何度も訓練に行きました。100mくらいの岩があって、そこで何十mか登るんです。まずは恐怖に慣れるための練習です。そこでは、どのくらい靴とか、登山の道具を信じられるかを知る作業でもあります。登山靴は、ロボットみたいに頑丈な靴ですけれども、そういった道具を実際の岩の突起に、引っかかるのかと、本当に大丈夫なのかを自分で確かめるということをしました。あとは、落ちる練習。登山は、逆に落ちることを怖がっていると登れないので、まず落ちてみて体感することが大事なんです。さらに、岩はどのぐらい手に引っかかるのかを体感すること。そういう練習を、数日間やりました。あとはボルダリングで、体幹で登る訓練をし、酸素トレーニングやロープワークもしましたし、雪の氷壁にピッケルを刺しながら、登って行くこともしました。とにかく練習の項目はこれでもかというぐらいあった。でも、全然足りなかったです。」

淡々と訓練について語ってくれたが、その訓練のひとつひとつの重要性を感じながら、阿部寛は羽生丈二という役をつくり上げていったのだろう。そして、伝説のクライマーの役作りへ、こんな思いも話してくれた。

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「羽生というクライマーは、登頂の為に全てを投げうる、普通に理解しようとしたら、無謀すぎるなと思うようなことをするのだけれども、羽生の山への情熱はそれをも超えるものじゃなければいけないという想いで演じてました。つまり彼は必ず生きて帰るという誰よりも強い意思を持って全てをこなしてきたわけです。むしろ爽やかに登頂への情熱をストレートに言える方が、説明するよりかえってリアリティがあると思いました。まずそこを考えましたね。」

阿部寛は命をかけて山と向き合う男の生き様、演じる上でも迷いは必要なかったようだ。そんな思いが伝わってきた。

「あとは、なぜ本当に山を登るのか。なぜだろう。それは僕自身も山を登りながら、日本のトップのクライマーの方がいたので、彼らに何度も質問をしたのですが、ちゃんとした答えが返ってこなかった(笑)。クライマーの彼らも家族はいる。子供もいる。なぜ山を登るのか?しかし、一ヶ月近くも一緒にいて、彼らが山を見る目線とか、そういう姿から何となくわかってきた。山に登るということは、憧れであり、挑戦であり、彼らの人生そのものなのだと。ある時クライマーの方が“あの山に昔挑戦したけれども、7,000mで駄目になった”と言ったんです。駄目になったってどういうこと?と聞き返したら、登頂まであと200mというところで、登れる状況ではなかったので、崖の途中でぶら下がってテントを張って寝ていたらしいんです。そしたら、燃料が足りなくなって諦めて降りたという話を聞きました。彼は過去2回挑戦をしているのだけど、登頂まであと少しなのに駄目だと思って諦めることが出来た。勇気ある決断ですよ。だから、今も生きてる。何かね、山に登るとは、人がどんどんいなくなっていくし、静かになっていく。60人ぐらいの集団で行きましたが、一人でトイレに行くと、山の声みたいなものとか、音とか、空気とか、そういうのが見えてくるんです。変な言い方に聞こえるかもしれませんが、神に近くなっていくような感じ。本当に夜とか、月明かりでまわりの景色が昼間のように見えてくるんです。そういうのを見ている時に、何か現実じゃない世界?その神の領域ではないけれども、ちょっと何かわかるような気がした。僕らは撮影で、山にいながら集団に守られた世界にいるからまだ違いましたが、単独行動で行ったとすると、もう突き刺さるように自然の恐怖を感じるだろうし、人生観は到底変わるんだろうなって思いました。本当に危ないところだなって思いました。音はないのに、向こうの方で雪崩みたいなものが、川のように流れていく。落石の音とかも聞こえてきたりする。30秒に一回ぐらい。音がない世界に来ると、こういう音が途端に聞こえてくるんだなって。落石が落っこちて頭に当たるって、そんな調子良く当たらないだろって思っていたら、本当に頻繁に落ちてくるところもあるのです。人間の世界を超越した世界というのが、わかりました。ベースキャンプまで行った時に。」