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Art Stop by Omosan

Lifestyle

Vol.101

2026.02.20

Vol.03 Jean-François Millet

南青山・骨董通りに佇む「gallery KASAI」。
代表の葛西寛氏は、アートを難解なものではなく「もっと身近で楽しめるもの」として発信し続けています。
今回のテーマは、「種を蒔く人」や「落穂拾い」で知られる巨匠「ジャン=フランソワ・ミレー」。
ゴッホにも多大な影響を与えたと言われるミレーですが、実は「描きたいものを描く」という画家の魂を貫いたパイオニアでもありました。
今回はOmosan STREET 編集部の梶尾幸希が葛西氏の元を訪ね、150年以上の時を超えて輝く名画の背景に迫ります。

 

農民の姿に「人間の尊厳」を描いたパイオニア

梶尾
今回のテーマはミレーですね。美術の教科書で見た「種を蒔く人」や「落穂拾い」が有名ですが、実はゴッホにも影響を与えたと聞きました。

葛西
はい、ミレーは美術史を語る上で欠かせない非常に重要な作家です。今回は、我々画商でも扱うこと自体が珍しいミレーの作品と素敵なご縁があったので、ぜひご紹介させてください。 まず注目していただきたいのは年代です。この作品にはミレーの直筆で「1863年」と記されています。前回までにご紹介したピカソやシャガールが今から約70年前、印象派のモネやルノワール、そしてゴッホやセザンヌがその少し前ですが、ミレーは彼らよりもさらに前の時代を生きた作家です。これほど古い年代の作品が、いまギャラリーで世に出てくること自体、奇跡的なご縁なんですよ。

梶尾
150年以上も前…!そんなに昔の作品と出会えるのはすごいですね。ミレーとは一体どんな人物だったのでしょうか?

葛西
一言で言えば、「初めて自分の思いのまま、描きたいものを描いて世に認められた画家」です。 彼が生まれた19世紀初頭は、まだ貴族や富豪からの依頼(オーダー)で絵を描くのが当たり前の時代でした。農家出身のミレーも、当初は生活のために流行の「裸婦画」などを描いていました。しかしある晩、彼は画廊の前で若者たちが自分の絵を見て「あれは裸婦しか描かないミレーだ」と噂しているのを耳にしてしまうのです。

梶尾
それはショックですね…。

葛西
ええ。でもそれが転機となりました。「生活は苦しくなっても、二度と裸婦は描かない。自分の心が本当に美しいと思うものを描こう」と決意し、故郷の原風景や、たくましく働く「農民」を描くことに没頭したのです。当時の社会はピラミッド構造で、農民は最下層の地位にありました。しかしミレーは、大地を耕し作物を育てる彼らこそが、社会を支える「縁の下の力持ち」であり、最も尊い存在だと考えた。農民への最大限のリスペクトを持って、ありのままの姿を描き続けたのです。

梶尾
なるほど。だからミレーの絵からは、働く人の強さや尊厳を感じるんですね。

葛西
その通りです。その姿勢は後の画家に大きな影響を与えました。「睡蓮」のモネもミレーを尊敬していましたし、何よりゴッホは画家を志した当初からミレーの素描を模写し、生涯を通して彼を師と仰いでいました。 今、都内ではゴッホ展が開催されていますが、そこでもゴッホのコレクションとしてミレー作品が多数展示されています。ぜひ美術館で教養を高めたあと、当ギャラリーへも遊びにいらしてください。150年の時を超えた「名品」との出会いは、きっと特別な体験になるはずです。

 

Jean-François Millet

「畑へ向かう農夫」
1863年/31.0×38.5cm/エッチング/限定10部(第1ステート)
バルビゾン派の巨匠ミレーが、大地と共に生きる農民夫妻の姿を力強く描いた代表的版画作品。 本作は、単なる版画作品ではありません。ミレーと親交が深く、バルビゾン派をいち早く評価した批評家アルフレッド・サンシエの依頼によって刷られた、わずか10枚しか存在しない「第1ステート(初版)」という極めて希少な一枚です。 さらに画面下部には、画家兼批評家のシャルル・テイヨに宛てたミレー直筆の献辞とサインが記されています。150年以上前の巨匠たちの絆と、当時の空気感をそのままに伝える貴重な作品です。

 

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