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Vol.41 Special Interview ENDLESS POWER HIROSHI ABE

Vol.41 Special Interview ENDLESS POWER HIROSHI ABE

阿部寛が体感した、エヴェレスト。溢れ出てくる言葉から、その凄さ、光景が映像となって見えてきそうな迫力だ。“音が見える”その表現こそが、人間の世界を超越した世界、エヴェレストを教えてくれる。

「判断を一歩でも間違ったら、生還は出来ない世界。山の声が見えてくるあの世界から、戻って来た時になんて都会は幸せなんだろうという思いや、生きているという実感を感じるのですが、それでもまた、もう一回その感じを確かめに行きたくなるんですよね。“なぜ山に登るのか?”とは、そういった初歩的なこと、もちろんそれ以上なんだと思います。ですから、昨年出演させていただいたドラマ『下町ロケット』もそうでしたけれども、今回の映画でも、“夢とか情熱”にこだわって真っ直ぐに追っていく姿、その後ろ姿を見て、何かその人の自分たちの生きる力に目覚めていくというか、そういったことをこの作品を観て持っていって欲しいなって思います。もちろん、クライマーの思いを理解してくれというのは、無理かなって思いますが。」

夢や情熱にこだわる生き様、阿部寛が役と向き合う、作品に挑む姿もまさに、その生き様と重なり合う。そして、撮影に挑む前の訓練を相当積んだ彼でも、エヴェレストでの演技は、予想以上だったようだ。

「登頂シーンの為に、恐怖を取り除く訓練も事前にはしました。具体的には、実際、岩を登っている状態で、命綱をして3mくらい落ちる衝撃を体験して。落ちた時に、“あっ3mってこのぐらいの衝撃か”と思ったら少し楽になりました。落ちた経験はないですから必要ない恐怖心はとり除いた方がいい。しっかりカラダも鍛えて訓練したから出来るだろと思っていたら、山の5,000mぐらい上の方は、風も雨も尋常じゃないのでしがみつく岩や氷壁が削れてツルツルになっているところが多くて。だから尖っているピッケルすら置けないんです。引っかかるところを探している時にもう限界で余計な体力を使い切ってパニック状態ですよ。引っかかる場所がないんです。どこに引っかかるのかも見えないし、わからない。カメラを回している時に、時間がないのと陽がなくなるのとで、ぶっつけ本番で挑んだら想像を絶するほどでした。あんなにトレーニングして行ったのに、悔しかったです。そういう見えない小さいところが自然の中で山ほどありました。あれは忘れられないです。」

エヴェレストという舞台は、想定外の連続。呼吸が苦しい中での演技は、映像からも伝わって来るほどの迫力だ。阿部寛がそこまで命がけで挑んだこの作品は、彼の俳優人生の中でどんなものとなったのだろう。

Vol.41 Special Interview ENDLESS POWER HIROSHI ABE

「今までで1番シンプル。シンプルという言い方なのか、何て言うか真っ直ぐで。余計なことが一切無い。羽生丈二は、ひとつの山というものに向かっていく、真っ直ぐでシンプルな男。潔い男だったんです。過去にここまでシンプルで真っ直ぐな潔い役は、無かったです。ストレートに山というものに情熱を傾ける、そういった作品に50歳過ぎてから出会えたのは、良かったなと思います。年齢的な説得力のある年でそこに向かうことができた。僕がもうちょっと若い時だったら、少し違うものになっていたと思うんです。シンプルに演じているのですが、なんか、この人がやってきた人生ってものが出るには、自分の今の年齢の説得力があってかろうじて助かったと思いました。自分の見た目からして。全て良い時にこの作品に出逢えたと思いました。」

噛みしめるように答えてくれた。このインタビューを通して、役者 阿部寛が、どうしてもクライマーと重なり合う。するとそれについて彼はこう語ってくれた。

「自分はクライマー向きかと問われたら、負けず嫌いだけど、負けることを別に悪くは思わない。そういう意味で言ったら、向いているのかもしれない。必ずそこで勝たなきゃいけないっていう人は、多分クライマーに向いていないと思います。山は自分と向き合う時間が多いんです。ある種、集団行動でもあるんですけれども。集中力も凄く必要としますし、達成感も必ずあるので、そういう意味では、俳優の仕事もそれは凄く似ていると僕は思います。」

さらに、阿部寛の終わることのないチャレンジ精神が伝わってくる言葉があった。

「僕は仕事では大変なものこそ、面白いと思うんです。映画やドラマだけでなく、舞台もそうです。過去に、大変じゃない舞台を味わったことがあって、凄く大変だったんです(笑)。迷っちゃうんです、逆に。“えー、こんなんでいいの?”ってなっちゃうんですよ。だから、できるだけ大変なものの方が自分にとっては楽しいし、迷わずやれる方がむしろ楽なんです。だから、山登りに似ているのかもしれない。目標に向かって、達成しなきゃいけないのに、“えっ?これくらいでいいの?そんなつもりで僕ここ来たんじゃないんだよ。”みたいになっちゃうと、苦痛な時間で、無駄な時間になってしまう。だから仕事は、できるだけ大変な役柄を選ぶようにして、そこでみんなで必死になって作る方が良いものできると思います。もちろん時間が足らないこともありますが、そっちの方が、いいものができたりする。不謹慎かもしれないけど、“戦友”ってあるじゃないですか。大変なことに一緒に迷わず挑むから、この映画もそうですが、やっぱり大変な作品で一緒に組んでいるとチーム力も上がって行きますし、クライマーも、くじけたら終わる世界。もちろん、計算して登頂を諦めなければならないこともあるけれど、くじけることと諦めることは違うと思います。」

阿部寛という役者の情熱に触れることが出来たような、言葉だった。くじけても挑戦し続ければ、終わりではない。その思いは、終わることはない。彼の挑む背中を観て、人はまた生きる力に目覚めるのだろう。

阿部寛/俳優

1964年6月22日生まれ。1987年映画デビュー。『歩いても歩いても』(07/是枝裕和監督)、『青い鳥』(08/中西健二監督)で毎日映画コンクール男優主演賞を受賞。その後も数々の作品に出演し、2012年には大ヒットを記録した『テルマエ・ロマエ』(12/武内英樹監督)で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞などその年の映画賞を多数受賞。14年度日本アカデミー賞では『ふしぎな岬の物語』(14/成島出監督)で優秀主演男優賞、『柘榴坂の仇討』(14/若松節朗監督)で優秀助演男優賞をW受賞。今後は、『海よりもまだ深く』(16/是枝裕和監督)、『恋妻家宮本』(17/遊川和彦監督)が公開予定。日本を代表する映画俳優の一人。

BRAND NEW MOVIE

映画 エヴェレスト 神々の山嶺

2016年3月12日(土) 全国ロードショー 全国東宝系で公開

野心家の山岳カメラマン深町(岡田)は、ネパールで山岳史上最大の謎を秘めた古いカメラを見つける。その謎を追ううち、消息不明だった孤高の天才クライマー羽生(阿部)と遭遇、彼が執念を燃やすエヴェレスト史上初の挑戦とその壮絶な生き様にのみ込まれていく…。

出演:岡田准一 阿部寛 尾野真千子 ピエール瀧 甲本雅裕 風間俊介 テインレィ・ロンドゥップ 佐々木蔵之介
原作:夢枕獏「神々の山嶺」(角川文庫・集英社文庫)
監督:平山秀幸  脚本:加藤正人 音楽:加古隆
製作:「エヴェレスト 神々の山嶺」製作委員会 配給:東宝/アスミック・エース
©2016映画「エヴェレスト 神々の山嶺」製作委員会