ライフスタイル

Art Stop by Omosan
Lifestyle
Vol.100
2025.12.12
Vol.02 Print
南青山・骨董通りに佇む「gallery KASAI」の主宰である葛西寛氏は、アートを「もっと身近で楽しめるもの」として発信し続けています。
今回は、絵画を語るうえで欠かせないキーワード「版画」について、Omosan STREET編集部の梶尾が葛西氏を訪ね、「版画とは何か」を学んできました。
「版画」とは一体なに?
梶尾
今回のテーマは「版画」についてです。「原画」は美術館で見るような、直筆で世界に一点しかない作品だということは分かるのですが、「版画」とはどのようなものなのでしょうか。
葛西
「版画」とは、〈同じ作品が複数世に存在する〉という点が、唯一無二の「原画」との大きな違いです。「版画=プリントでしょ?」とよく聞かれますが、巷にあるコピー品とはまったく異なります。版画は1700年代に生まれ、歴代の巨匠たちが好んで取り組み、今日まで受け継がれてきた伝統的な技術なのです。簡単に説明すると、作家が何度も試行錯誤して下絵を仕上げ、その下絵をもとに版(現版)を作ります。その版を使い、刷り師と呼ばれる職人が作家と相談しながら色彩を微調整し、一枚一枚丁寧に刷っていきます。刷り上がった作品のコンディションを作家自身が確認し、認めたものにだけ証として鉛筆でサインとエディションナンバーを入れます。(エディションナンバーは左下、サインは右下です。)ここまでが版画制作の大きな流れとなります。
梶尾
なるほど…。版画制作には気が遠くなるほどの時間と労力がかかるのですね。「リトグラフ」という言葉もよく耳にしますが、版画技法のひとつなのですか。
葛西
そうですね。版から刷る工程にはさまざまな技法があり、作家は作風に合わせて使い分けています。中でも「リトグラフ」は色彩を非常に繊細に表現できるのが特徴で、パリ・オペラ座の天井画を手がけた“色彩の画家”マルク・シャガールが特に好んで使用していました。シャガールはリトグラフを見事に使いこなした作家として知られ、代表作「ダフニスとクロエ」と呼ばれる物語の名作には構想に10年の歳月をかけたと言われています。一方、ピカソは非常に多くの技法を操り、数々の名作を生み出してきました。中でも高い評価を受けているのは、躍動感のある線が魅力の「リノカット」、そして銅版画である「エッチング」という技法で制作された作品です。中でも《サルタンバンク・シリーズ:貧しき食卓》は代表作として知られ、市場価値の面でも非常に高い作品です(笑)。さらに時代が進むにつれ、発色がよく色ムラが出にくい「シルクスクリーン」という技法が誕生します。この技術を見事に使いこなし、ポップアートを世界的ムーブメントに押し上げたのが、アメリカンポップアート界に王として君臨していたアンディ・ウォーホルです。
梶尾
版があるなら、たくさん生産できてしまうようにも思いますが、どうやって価値を保っているのでしょうか。
葛西
版にもコンディションの限界があり、作品のクオリティを保つには大量に刷ることはできません。また、限定数を刷り終えた後は、版にバッテンや切り込みを入れて破棄し、再刷を防ぐのがルールです。さらに作家直筆のサインが入ることで、“作家が認めた作品”としての価値がしっかりと保証されます。インターネットのない時代、原画だけでは作家を広く認知してもらうことが難しく、版画という形にすることで世界中へ作品を届けることができました。歴代の巨匠が版画に夢中になり、多くの名画を残した背景には、そんな理由があったからなのです。これからも、版画という奥深い世界の魅力を多くの方々に楽しんでいただけるよう、お伝えしていければと思っています。
Marc Chagall
シメオン族「エルサレムの窓より」
1964年/61×46cm/150部/リトグラフ
オペラ座の天井画(パリ)、国連総本部のステンドグラス(NY)等、数々の国家建造物を任され、「色彩の魔術師」とも言われた画家、マルク・シャガール。ピカソが嫉妬したと言われるほど美しいシャガールの色使いは、リトグラフ版画でも格別。アンドレ・ムルローという名の伝説の刷り師だけがシャガールのオリジナル版画を手がけており、本作もその一枚です。ステンドグラスを制作した際の作品で、窓の形になっているのが特徴です。
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